Monotone



キラからアスラン宛に贈り物が届いたのは、三日後のことだった。アスランの元には皇帝や大臣達からたくさんのプレゼントが届く。それはキラと同じく覇王を生む体だからだ。彼らも彼女のことは道具としてみてはいるが、キラのように露骨ではない。

彼の初めての贈り物に驚いたのはアスランだけではない。彼女付きの女官全員が驚きを隠せずにいた。またナタルの差し金だろうかとアスランは疑った。彼がらしくないことをするときには大抵彼女が絡んでいることに最近気がついたのだ。

ミリアリアが持ってきたのはリボンの付いた大きめの籠だった。それをテーブルの上に置くと、アスランの目の前に置いた。

一晩中彼の世継ぎを作る計画に従ったアスランが翌日起床したとき既にキラはおらず、迎えたのはミリアリアだった。アスランは彼女の姿を見て何度も謝罪の言葉を述べ、彼女も同じく何度も謝罪した。キラの言葉があってか、彼女に真実を告げることはない。勿論他の誰にも言わなかった。アスランがそれを許さないのだ。

彼女をはじめ女官達は皆、アスランから一時も目を離さない。鳥籠の警備が厳しくなったことも知っている。しかし、そんなことをしなくても、アスランは二度とオロファト宮殿から離れるつもりはない。キラの言葉がそれを教えてくれたのだ。

アスランの行動一つで何万人という命が犠牲となる。それを望む将軍。彼が欲しいのはプラント皇族の血と領土。そして皇帝の地位。それとは別に、キラはプラントを憎んでいるようだった。滅亡させたいという高笑いが今でも耳に残っている。彼は将軍だ。それでなくともプラントの人間を殺している。アスランが守ろうとしたものを奪う手が彼女の体中を這う。それを想像するだけで惨めだった。死んでしまいたいと思うほどに。

野望のために世継ぎを作る。アスランはそのための道具。将軍にとって人殺しと子作りが最大の仕事だった。そんなアスランの正気を繋ぎ止める存在が思い人。確かな会話はできなかったが、それでも本物の彼が手の届く位置にいた。それが何よりも嬉しかった。階段を駆け下り、手を伸ばして彼の胸に飛び込んだはずだ。そして人知れぬ地に逃げる。

もしアスランが天涯孤独のみだったら、迷わずあの時彼と共に逃げただろう。しかしアスランはプラントの皇女で、国民の命を背負っている。逃げたくとも逃げられず、触れることも、言葉を交わすことも叶わない。許されるのはただ思い続けることだけだ。だからアスランは何もしない。

彼が道具に使うのならばそれでいい。そう覚悟していている。

アスランがリボンを解くと、籠の蓋を開ける前に、それが小さく動いた。ミリアリアが悲鳴をあげ、柱の影に逃げ出す。恐る恐るアスランが手で掛け蓋を開けると、そこには二匹の子猫が入っていた。

「猫……?」

籠に入っていた白い子猫を抱き上げると、猫が小さく鳴いた。まだ掌に収まるくらいのサイズで、首には赤いリボンを巻いている。だが、雄だった。もう一匹はそれと対の真っ黒い猫だ。白いリボンを巻いているが、雌のようだ。

――こんな手の込んだ嫌がらせ……

アスランは猫のリボンに付いていたカードを取り出し、黙読した。“猫が好きなようなので"と走り書きしてある。アスランに対する嫌味。逃げることは二度と許さないという彼の脅しも含まれている。彼に対する憎悪が益々膨れあがっていく。



「随分と楽しそうですね、将軍」

オロファト宮殿内の将軍室で悪戯をした後の子供のような笑みを浮かべるキラを見てルナマリアが言った。彼の行動に困り、あきれ果てている様子である。勿論、困っているのは悪戯をやめないからではない。

「どう動くかなって……」
「何がですか?」

キラは答えずにダーツを投げた。見事中央に命中する。もちろん勤務時間中であり、ルナマリアが再三注意をしても聞かない。左手に持っていたダーツの矢先を弄ると、また一本的に向かって投げる。次はほんの数ミリ右にずれてしまった。キラは舌打ちをする。

「彼女を殺したら、プラントはまた戦争をしかけてくるかな」

キラは生意気な目で睨み付けるアスランを思い出した。屈辱に耐える瞳。激しくすればするほど鋭くなる目付きはキラを苛つかせた。子供さえ生まれてしまえば彼女など用済みだ。彼女を殺せばプラントはきっと戦争を仕掛けてくるはずだ。そしてそれをキラが滅ぼす。我ながらなんていいシナリオだろうか。キラは更に大声で笑う。

「やっぱり邪魔だよ、プラント」

キラは一度に三本のダーツを投げる。その全てが中央に刺さった。彼が刺したのはボードではなく、敵国プラント。



To be continued……