Prologue |
オーブ帝国とプラント帝国はかつてよりその大陸に存在し、大陸の覇権を握るため幾度となく争いを繰り返していた。 彼らの祖先は元を辿るとひとりの男。その男の名は歴史に記されてはいない。彼は名で呼ばれることがなかったから知る人間も少ない。何故ならその男はかつて大陸の覇権を握っていた、つまり覇王であるからだ。 大陸の全てを支配し、統治するという意味合いを込めてその男は自らを“覇王”と名乗ることとなった。 その男には息子がふたりいた。息子たちの名前も歴史には残されていない。父の与えた称号で彼らは呼ばれていた。月日は流れ、全王は老いてしまったが周囲がどんなに進言しても後継者選びをすることはなかった。どちらとも優秀だがどちらとも覇王の器ではなかったからだ。 しかし彼らは覇王の器はなくとも王の器は十分に備わっている。そう考えた王は大陸を二つに分け、彼らにその地の統治権を与える。どちらかが覇王になるわけでなく、兄弟の力を合わせて国を治めて欲しいと考えた。 全王の考えの半分は正しかった。地の王子の兄は砂漠のプラントを統治し、天の王子の弟はオーブを統治した。互いに協力し合っていた。それは父である覇王が病の床に就いても、崩御しても変わらず、ふたりで手を取り合い繁栄の道を歩んでいた。 ところが天の王となった弟が急病で崩御し、数年も経たないうちに地の王となった兄も同じ運命を辿ると、固かったように見えたふたつの地域の関係は音を立てて崩れ去っていった。 天地の兄弟王がふたりで協力してひとつの国家を統治していくという体制を嫌っていた者も少なくはない。地の王の息子もそのうちのひとりで、父が叔父と協力して国を統治することに疑問を持っていた。元々兄である地の王が全王の跡を継ぐのはごく自然なことで、その息子である自身が覇権を握るのはこの世の道理、と考えた新しき地の王は統治していた地域の名をプラント帝国と改め、オーブへと進軍していった。 戦争は兄弟の息子である王たちが死去することで終わりを告げた。しかしまたすぐに些細なことで揉めては戦争が起こり、何年後かに休戦をし、どちらかが休戦を破り攻撃を仕掛けることが数千年続いていた。 その数千年という歴史上でも一番長く続いているのが現在も終結していない、後に第三十五次天地大戦と呼ばれる大戦争である。戦争を始めてすでに百年以上が経過していた。 |