Because of


それは、キラの今の生活を壊した人物。遺伝子上の息子であった。遺伝子研究所の時のように苦しそうに胸元を掴んでいる。ゲートの影で周囲にはよく見えないが、キラやラクスのいる位置からは向きによっては確認できる。その証拠に他の人間は彼の異変に気がついていない。ゲートに寄りかかった彼は苦痛に顔を歪めていた。

キラはラクスに何も言わず、彼の元へ急いだ。ラクスが彼を呼んだが、説明している時間はなかった。近づくにつれ、はっきりと彼の体が見えてくる。汗だくになった彼の腕の血管が浮き出て、痛々しい。痛みにじっとしていられない彼は小さな範囲で暴れていた。

ゲートに触れているだけとなった彼を後ろからキラが眺める。何が彼を苦しめているのか、わからなかった。

「苦しそうだね」

軽い口調でキラが言うと、シンは彼を睨み付ける。その瞳は異常なほどに充血していた。触るなと言おうとしているが、声にならなかった。キラの手を振り払おうとしたシンの手は彼の体を突き抜けた。

「なに……」

自分の体の中を通った感覚に驚き、倒れ込んだシンを見下ろす。キラは自分の体を見て、異常がないことを確認するとシンの体を眺めた。薄く透き通る姿に、彼自身が魂消ている。苦痛と恐怖に歪んだその表情にキラも彼に駆け寄った。彼の身に何が起こっているのか見当も付かない。

しかし、医学の知識のない彼にもシンの容態がただの病気ではないことが窺えた。ものを通り抜ける病気など、考えられない。数百年後の未来から来たならまだしも、彼が来たのは十数年後の未来である。

キラの脳裏に浮かんだのは遺伝子研究所だった。カガリとアスランが触れ合った瞬間に彼は胸を押さえて苦しみだし、離れるとそれがなくなった。キラが彼らの姿を探せば、案の定彼らはゲートの近くで触れ合っていた。そして今まさにエアバイクでこの場所を離れようとしている。

一瞬考えたが、目の前にこうして苦しんでいる人間を放っておくほど冷酷ではない。自分の力が彼にどれだけの影響を及ぼすか、見てみる必要もある。もし、本当にキラがシンの父親ならば、何かしらの変化があるだろう。試してみる価値はありそうだった。

苦しみ藻掻くシンに言葉を掛けようとしたが、キラはそれを直前に止めて歩き出す。シンは彼を止めようと努めたが、力が入らずにその場に崩れた。それを支える真っ白な手。視界に入った桃色の髪にシンが驚いていると彼女は優しく彼の頭を撫でた。

「アンタ……あい、つの……」

ラクスを見てシンは目の色を変える。母親を思い出させる温かな手がシンの黒髪を梳いていく。

彼は彼女のことを一度見たことがあった。父親であるキラと抱擁していた彼の本命である。恐らく彼は彼女を選び、アスランを捨てる。その未来を知っているため、複雑な感情が渦巻く。ラクスの手を振り払うと苦しみと闘いながら必死にゲートに齧り付いた。隙間から丁度アスランとカガリが確認できる。エアバイクで去ろうとしている彼らは触れ合っているとはいえ、自然なものだった些細な触れあいでさえこんな苦痛をもたらす原因を彼は知っている。

彼が禁忌を犯してから、小さなことで胸が痛むのだ。そして今日、初めて自分の存在の危うさを知った。死ぬのではなく、消滅という単語が彼に恐怖を与える。自分の存在をなかったことにする。その結末は消滅だった。

決意したはずだった。それなのに今更恐怖が込み上げてくる。シンは確かに触れられる自分の手を握りしめた。

視界にキラが現れ、エアバイクに向かって一直線に歩いていく。跨ろうとしていたアスランの腕をかなり強引に引き、振り向かせる。アスランが驚いた顔を見せて直後に拒絶した。カガリがキラの存在に気がつくと慌てふためいていたが、既に彼女はキラの腕の中にある。シンの体を刺していた痛みが少しだけ和らいだ。

「ふざけるな!離
――

彼女の声が聞こえなくなったと思えば、シンは死に至る程の苦痛がなくなったことに気がつく。あまりに突然だったため、自分の胸元を確認した。先ほどあんなに苦しかったことが嘘のようだった。不思議に思ったシンが彼らに視線を向ける。

キラがアスランの腕を拘束し、強引に口付けをしていた。波打つ鼓動にシンの体が熱くなる。あまりに早く大きい心音に何も考えられなくなった。

苦しそうなアスランを他所に、キラがゲートへと彼女を追いやる。暴れるアスランを力でねじ伏せると、言葉にならない悲鳴が消えていった。アスランが彼の胸を叩くが、頭と腰を固定すれば彼女は為す術もなかった。

ゲートの傘の影が死角となっていることを知っているキラがそこに追いやったため、他の生徒から見えることはないが、それでもアスランはキラの腕の中で拒絶をする。カガリが彼らの後ろで呆然としており、止めようともしなかった。

アスランが唯一自由な手を伸ばし、爪を立てるようにしてカガリに助けを求め、やっと彼は現実に引き戻された。そして嫌がるアスランをねじ伏せるキラに制止を求める。キラはそれを無視し、行為をエスカレートさせた。

舌を挿入すると彼女の味を確かめる。柔らかい感触に笑うとアスランが歯を立ててきたので引っ込めた。するとアスランは歯を食いしばり、キラの侵入を拒む。キラは彼女の強情さが嬉しくも思えてくる。舌で歯列をなぞり、頭を抑えつける手を耳に添えた。

徐々に抵抗しなくなったアスランは力尽きていた。立つ力を失い、壁とキラによって支えられている状態だった。それでもプライドが許さないのか、キラに触れようとはしない。キスに自信がある彼にとっては彼女の力を奪うことは容易かった。

キラはカガリの奥に立つシンを確認すると彼の顔色もよく、回復したことが窺える。そして彼はあまりに感度のいいアスランに口付けがやめられず、彼女を味わった。これで彼女を奪えば、ラクスと破局しなくて済み、カガリに仕返しが出来る。一石二鳥とはまさにこのことだとキラはほくそ笑んだ。



数分ほど味わってからアスランを解放すると、カガリが倒れ込む彼女を支えた。キラはすぐにそれを奪い返し、自分の腕の中へと収め、カガリを突き飛ばした。コンクリートに叩きつけられたカガリが恨めしそうに睨み付けていた。キラは屈辱に下唇を噛む彼を嘲笑った。

「彼女は僕が送っていくから」

アスランの肩を抱くと、キラは彼女の家へと歩き出す。一度だけ足を運んだことのある大豪邸を思い出した。少し遠いが歩けない距離ではない。ほとんど意識のないアスランは彼にされるがまま、ほとんど働かない頭を停止させていた。

キラが進んでいくと、腕の中で彼女が吐息混じりの声で触るなと言った。それを無視をする。彼女の無意味に高いプライドがキラに支えられることを許さず、半分意識を飛ばしているのにも拘わらず彼を拒絶し続けた。どこまでも思い通りにならない彼女を強引に拘束すると彼女は大人しくなった。



18.1VS1→