絡み付く舌を甘噛みしながらキラの髪を撫でる。当たり前にアスランと同じシャンプーの香り。それから熱を帯びた瞳。 「んっふ……」 「は……ぅ」 唾液が伸びて横になるアスランの頬から耳に向かって一直線垂れていった。それをキラが舐め取る。色づいた唇は男とは思えないほどの色香。男娼とはこんな感じなのかもしれない。 キスの合間にアスランによって緩められたネクタイとはずされたボタン。それからはだけた胸元に苦笑する。 いつもの行為だ。キラが愛撫してアスランがそれを受け入れる。アスランは少なくともそう思っているだろう。 首元に舌を這わせてゆっくりと吸い付く。白い肌に跡をつけるたびに彼はキラの髪をなでる。それが嬉しくて何カ所も吸い付けた。吸い付けながら指先で頂を摘む。口よりは感じないようだがやはり熱が疼くのだろう、苦しそうな表情を見せる。 だから労るように熱を撫でればすでに形づいて主張をしていて、思わず唾を飲み込んでしまった。 男に欲情するなんて以前なら想像もできなかったのに、現在進行形で姉の結婚相手で高校からの親友であるアスランに欲情している。そして彼も自分に欲情している。 「あ……」 「もう固くなってるね、いつもよりずっと」 「キラ……言うな」 言葉にすることなんていつもなら考えられないアスランはただ目を閉じて首を振った。そうすれば手を掴まれてある場所へと導かれる。 「僕も、結構キてる。ほら」 初めて触れたキラのもの。それを想像して顔が熱くなる。いつもは触れられるだけだったし、義務的だった行為だからキラの言葉は慣れなくてくすぐったい。 小さい電流が背筋に走り、それが喜びと快感と愛しさだと気がつくのにはそう時間は掛からなかった。自分の男の部位が狂おしげに形を変えていく。 トランクスの下から先端に触れるキラの指。飾りを弄ばれながらというのは大分苦しい。キラのベルトをはずしかけていた指が小刻みに震えてしまうのは感じてしまっているから。 震える指でゆっくりとベルトをはずし、キラのズボンを脱がせる。布のすれる音が妙に恥ずかしくて、それを紛らわすためにキラの頭部に唇を落とした。キラは頂とアスランの先端を弄るのでいっぱいだったからそんなアスランの行動に驚き、そして喜ぶ。 強く唇を押しつければ、柔らかく重なり合う。アスランはやっとキラの形付いた熱に手を伸ばしてキラがしているようにそれを愛撫する。 「あ……」 甘いキラの声。その声だけで達してしまいそうになる。この熱を分かち合いたい、許されない想いでもこの一瞬だけは親友という仮面を剥いで愛し合いたい。 一糸纏わぬ姿になると、お互いなんだか恥ずかしくなって誤魔化すためにまたキスをした。頬に、瞼に、額に、唇に。 それからキラは指を滑らせる。それからキラが触れた意外な場所にアスランは思わず赤面する。 「キラ!?」 「何?」 「なんてところ触ってるんだ!」 今更どこを触られても、と思うだろうがさすがにそこはアスランにも抵抗がある。男同士で行為をするには解さなくてはならないことは知ってはいるが、あまりに唐突でまじめなアスランにはまだ時間が足りない。 それに納得できないことがもうひとつ。 「もしかしてお前が挿れるのか?」 「ダメなの?」 「ダメって……普通は俺だろう」 「普通って何?」 そもその自分たちがこういう行為をしている次点で普通じゃないのにすぐに型にはまりたがるアスランにキラはむっとする。キラは勿論自分が挿入するものだと思っていたからアスランの制止が気に入らない。 「俺の方がしっかりしてるし背も大きいし……女顔だし」 よくよく考えてみるとたいした理由ではない。ただどちらかといえばキラは可愛いからなんとなくそうかなと思っただけで。そして何より自分が受け入れるというイメージができないからだろう。 まさかこんなことで中断するとは思っていなかったふたり。お互い自分が挿れる側だと思っていたらしくそこは譲れないらしかった。 「女顔って……気にしてるのに!」 「あ……そうだった。すまな……」 「謝らないでよ!どうして君はいっつも謝るの!?」 子供のようなキラの仕草。裸だというのに幼さが残るその表情にアスランの顔もほころぶ。初めてあったときもこんな感じで笑っていた。周りとは距離を置いていたアスランが羨ましいと思うほど元気で周りに人がたくさんいるキラの魅力のひとつ。 ――あのとき、話しかけてきたとき、俺がどんなに嬉しかったかお前はずっと知ることもないんだろうな 「癖なんだから仕方ないだろう」 「じゃあ今度から謝った回数だけ僕が挿れる」 「なんだよ、そ……あ!」 キラの頓珍漢な言い分にアスランは異議あり、と申し立てる。しかしながら馬乗りになっているキラに逆らえるはずもない。そしれ最後まで言い終わる前に自身を強く掴まれてしまい、負けを認めざるをえないのだった。 「キラ……!ずる……いぞ。自分が……挿れたいだけなんだろ!」 「うん。そう」 先ほどまで認めたくないと騒いでいたやつの言い分とは思えない。アスランが言い返せないことをいいことに先ほど触れた部位に指を挿入した。 「いっ……」 「いたい……?」 必死に首を振るアスランに無理をしていることが伺える。でもキラの熱を挿入すればこんな痛みでは済まされないだろう。それをわかっていて聞くのだから自分でも狡いと思う。 キラもアスランも行為自体は初めてではないが対象が男となると話は別だ。受け入れる場所が違う分慎重に進めなくてはならない。女性は女性器で男性器を受け入れるが男性には男性器を受け入れる場所などどこにもない。少しでも熱を分かち合えるのなら痛みを伴ってもいいとアスランは思っていた。 「まだ、平気だ」 キラが挿入すればアスランは必死に背中にしがみつく。ベッドの上だというのに固く強くキラを抱きしめればキラは何度も耳元で名前を囁いてくれる。囁いた分だけアスランもキラの名前を叫びながら紡いだ。 「えっ……うん…はっ…ああっ」 不規則な呼吸。コントロールできずに肩が勝手に上下する。想像以上の痛みに涙が出そうになった。必死に耐えるその脳裏に浮かんだのはカガリの顔。彼女が処女を喪失したときもこんな痛みだったのかもしれない、と思うとあのときはもっと労ってやればよかったと後悔した。今更だけれど少しだけ女性の辛さがわかった気がする。 「アスラン……抜く?」 「へ……きだ。大丈……夫」 心配そうに顔を覗くキラの長い前髪を梳かしてやるとキラは深くアスランに口付けた。いつものように一方的に慰められるのではなく、ともに分かち合うならば痛みも和らぐ。あのときキラに軽蔑された方がきっと苦しくてもっと辛かっただろう。 この痛みは幸福の痛みだ。痛みを感じれば感じるほど幸せだという証拠だと思えてくる。 「んっう……ああっ」 痛みを和らげようとキラが前を擦るが痛みは和らぐことなどなく、痛みと快感は分離していた。 「あ……う、ん」 「アスラン」 「キ……ラ」 痛みがだんだん退いていき、キラの質量に慣れ始めると向かい合うように抱き合っていたキラとアスランは愛しさを込めて互いの名を呼び続ける。他の誰でもなくお互いの名を。 「はじめから……こうしてればよかったね」 「馬鹿……だな。おれたち」 カガリを巻き込んでしまったこと、彼女を傷つけてしまったことは後悔している。ずっと彼女を傷つけていたことも自分の本当の気持ちにも気がついてなかった。 認めてしまったら肩の荷が下りて楽になった。彼が先に認めてしまったことが大きいだろう。自分一人だけの気持ちならば一生認めなかったに違いないがアスランが好きだと言ったから認めることができたのだ。 だから本当は自分が謝らなくてはならないのに。 彼にカガリを紹介したのも今思えば彼を自分の近いところに置いておきたかったからとも思える。ふたりの閧ノ生まれた子供なら愛せると思ったのかもしれない。あわよくば一人くらい子供をもらおうとか頭の隅で考えてたのかもしれないし。 もうふたりの閧ノ子供は生まれない。だけどキラにとってはどうでもよかった。アスランがずっとそばにいてくれれば。アスランもきっとそうだろう。 「キラ……」 「アスラン……」 「あ……、ん……あっ!あっ!」 早急に動かされるキラの腰に徐々に解れたナカは快感を呼ぶ。 「あ……キラ!キラ!」 繋がった部分が切なくて、悲しくて、それから幸せすぎて自然と流れる涙が何を意味するのかお互いにわからないまま熱を分かち合った。 *** カーテンから差し込む光に薄く開かれた瞳をもう一度閉じようとした。肌触りのいいシーツに視線を向けると目の前には親友の顔。。 それから触れあっている素肌に赤面した。アスランの腕とキラの腕、そしてお互いの足が絡み合って容易には離れることができない。 叫んで喉が痛いので水を飲みにリビングに行こうと腕を緩めたが足が絡まっているためそれは叶わなかった。 キラの鎖骨や首もと、にはいくつもの痕。おそらくアスランが昨夜付けたものだ。同じようにアスランの鎖骨近辺にも痕が散っていた。キラによって付けられたその痕は胸元にまで広がっていた。 無我夢中だったからよくは覚えていないがキラが耳元で愛しているとささやき、アスランも何度も何度も愛していると叫んだ。 本当はその一言で表現できる感情ではない。もっともっと違う表し方を望んでいた。きっとキラもそうだ。狂おしいほど相手を想っているからこそ今まで頑なだった。 言葉に表すことができるのならどんなに便利だろうか。お互いに対するこの想いは言葉に表すことが不可能なくらいに深く、難儀だから。 これから少しずつ紡いでいくのだろう。この想いの言葉を。 ふたり一緒に。 END |