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「アースーラン」

後ろから近いて目隠しをすればその声に反応して男の人なのに長い髪が手にあたって少しくすぐったい。

猫っ毛だと知ったのはつい最近で自分で照れくさそうに言う彼がとても可愛くて声を上げて笑っちゃった。ラクス様は声を上げて笑うことがなかったのかもしれない、って思ったからすぐにやめたけど。

「……ラクス?」

そう呼んで欲しいって思う気持ちは半分。後の半分は『ミーア』って呼んで欲しい。ラクスでいたいのにミーアって呼んで欲しいなんてずるいよね、あたし。

「あたり」

そして半分はずれ。本当は全部はずれ。だってあたしはミーアだから。顔も髪も全部が嘘もののラクス・クラインに似せた存在。でもいいの。声だけはだませるなんてあたしもすごいな。

「コンサートじゃ?」
「アスランったら来てくれないんだもの。困りますわ!」

少しすねたように言えばすぐに謝ってくるアスランに思わず何で謝るの、って言っちゃった。そしたらアスラン恥ずかしそうな声で癖なんだ、って言ったの。すんごく可愛い。

「謝るのが癖なんて変なの」
「そう……だな」
「でもアスランらしいかも」

アスランは聞いていた「アスラン・ザラ」とはちょっと違う。

英雄でクールでかっこいいザフトのアスラン。確かにそうだけど何か違う。

だってこんなに不器用でいつも悩んでる人だと思わなかったもの。真面目すぎるのね。でもあたしクールでかっこいいアスラン・ザラより不器用なアスランの方が好き。

ミーアは、ミーアらしくしちゃだめだから。ミーアはラクスらしくしなくちゃだめだから。だからアスランらしいアスランっていうのちょっといいな、って思う。でもあこがれのラクス・クラインをやっているんだからこれくらいは普通よね。わがままは言えないもの。

「あたしは、ラクスらしい?」

困るってわかっててこんな質問。怒るってわかっててこんなこと聞くの。でも知りたいから。

「ラクスと君は別の人間だよ。それぞれ違う。それじゃだめなのか?」
「たぶん…ダメ。今あたしに必要なのはラクスらしくすることなの。ミーアの個性なんて議長も…ううんプラントのみんなもいらないって言うもの」

つまりまったくらしくないって言いたいのね。昔から声以外似てないなんてことわかってたけど、はっきり言わないところがアスランの優しさってことかな。

あたしアスランのことはラクス・クラインの婚約者くらいしか思ってなかったのに、彼の優しさがこんなに心地いいなんて想像もしなかった。

「ミーア……」

時々わからなくなる。ラクスでいたいのか、ミーアでいたいのか。ラクスとしてみんなに必要とされて、みんなに称えられてみんなの支えていたいって思うのに、ミーアを忘れないでほしいって思っちゃうの。今だってアスランに名前を呼ばれてすごくうれしいもの。

あたしきっと両方捨てきれないんだわ。

ラクスとしての光も、ミーアとしての影も。だからこんなにも苦しいの。言ったりきたりだから悲しいの。

ラクスを演じきれない自分に、もうミーアには戻れない自分にむなしさを感じるの。

「アスラン……」

アスランだけがミーアって呼んで、ミーアとして接してくれる。他の人が忘れてもきっとアスランは覚えていてくれる。これがつかの間の夢だとしても、あたしもきっと忘れないと思う。




END